
Interview
やまとサンクリニック 理事長インタビュー
新潟大学医学部卒業後、慶応義塾大学医学部外科学に研修医として勤務。その後複数の病院で、心臓外科医として、スキルアップした後、東京・神奈川県の病院で病院長を務める。その後、あすなろ会を発足。在宅医として現場を駆け回る傍ら、医療関係者や地域の方向けに講演などを行う。
大蔵 幹彦
やまとサンクリニック 理事長
医師


在宅医を目指したきっかけ
もともと心臓外科専門医で、止まった心臓を動かし続ける仕事をしていたんです。そしていよいよ60歳という節目の年を迎えて、「メスを置く」となったときに、自分の医師人生、最後何に尽くしたいかと考えました。
その時、以前非常勤で働いていた「在宅医療」をもう一度してみたいと思うようになったんです。これからは、止まった心臓を動かす仕事ではなく、最期を迎える人に寄り添っていきたい、と。だからこそ、あすなろ会では看取りにも力をいれています。

在宅医療の難しさを感じた日々
加齢により体力的な衰えと記憶・認知・判断機能の低下・混乱など「高齢者が抱える諸問題」が生じますが、もうひとつ困った問題に直面しました。それは「高齢者のうつ」です。私が訪問するたびに「死にたい」、「先生、もういいよ」という言葉をかけられ、在宅医になったばかりの頃は、正直どのように対応すればいいのか戸惑いました。
病院の医療は「病気を克服する」のが目的で「死は敗北」でした。しかし、在宅での医療は「長寿をサポートする」のが使命で「死は必然」です。この看取りも在宅医の担当ですが、日々患者さまと向き合っていると、目の前で様々なドラマが展開されます。
超高齢化社会に突入した日本で、「長寿」が祝福の対象から社会不安要因になっているのが現状です。しかし、訪問在宅医として、患者さまにとって「一番幸せだと思える老後」を支援していきたいと思います。

患者さまと心から繋がった瞬間
訪問診療でお伺いしている中で、まったく口を開かずに、ずっと下を向いている男性がいました。大正生まれで「日本男児たるもの・・・」という考えをお持ちで、私たちが声をかけても、頑なに返事をしてくれませんでした。
ある日のこと、その方がずっと窓を見ていたので、「今日は天気が良いですね、何を見ていたんですか」という質問をすると、ぽつりぽつりと単語を言い、それから昔戦争で経験された重巡洋艦の話を始めました。ここ数年間ずっと寡黙だった方が、こちらが一つ話題を投げかけただけで、パッと目の色が変わったのです。数十年誰にも話していないような話題を私たちに話してくれるとは、私たち自身も驚きでした。その瞬間、在宅医ができることは、治療だけではないと感じましたし、毎日誰かのために少しずつ時間を使ってみよう、と思うようになりました。
後から聞くと、重巡洋艦の話は、ご家族も今まで知らなかったらしく、私たちがその話を聞き出せたことをとても驚いていました。それから、その患者さまは、診療日になると、玄関で待っていてくれて、私たちを暖かく迎え入れてくれるようになりました。
ただ訪問して診察するだけではなく、患者さまの背景を誰よりも理解し、人生に寄り添えるパートナーであり続けたい、そんな思いで今日も訪問診療を続けております。
あすなろ会が大切にしていること
私たちにとって在宅医療は、とてつもなくやりがいのある仕事だと感じています。
なぜなら、総合的な治療の技術はもちろん、医療従事者が根本的に必要とされるスキル―「やさしさ」や「人間力」が試される現場だからです。2007年に開業して以来、たくさんの方々と接して、たくさんの患者さまの人生の最期にも寄り添ってきましたが、感謝されることはあっても、トラブルになったことは一度もありませんでした。これは、恵まれた仲間はもちろん、ご家族と同じ方向を向いて、大切な人の最期を迎えられた結果だと思います。
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